同じイスラムの国である中東諸国では宗教対立が内紛に結びついている印象がありますが,マレーシアは安全な国ですか?
本記事では次のような疑問に答えるように書きました.
マレーシアの宗教に関する疑問
- マレーシアの宗教は何ですか?
- イスラムのマレーシアにおける禁止行為は?
- 多民族国家のマレーシアでは宗教対立はある?
この記事は,次のような方にお役に立てるように書いています.
こんな方におすすめ
- マレーシアへの移住したい方
- マレーシアに旅行を計画している方
- 東南アジアのイスラムに興味のある方
マレーシアの国教(国の宗教)はイスラムで,マレーシア人口の60%はムスリムです.
参考
ムスリムとは,イスラムの信者です.
私はマレーシアに2年間住んで,現地で仕事をしています.
生活でも仕事でもムスリムの同僚にはちょっとした気遣いをすることで宗教関連で「いざこざ」に巻き込まれたことは一度もありません.
そんな私が,この記事でマレーシアの宗教および日常生活で宗教に関して気をつけていることを書きます.
この記事の内容は次になります.
無宗教の人が多い日本に住んでいると,宗教は近くて遠い存在です.
マレーシアでは宗教は身近に感じることになりますが,最低限のマナーを守ることで無駄な争いを避けることができます.
マレーシアの宗教はイスラム
マレーシアの国教はイスラムです.
他にも仏教,ヒンドゥー教,キリスト教もあります.
街中ではイスラムの祈りの場であるモスクをよく目にしますが,仏教寺院,ヒンドゥー教寺院,教会も点在しています.
イスラムついて知りたい方は,アニメで解説したコアラ先生のYouTube動画がおすすめです.
「スンニ派とシーア派のどこが違うの?」と疑問を持たれている方は必見です.
日本に住んでいると宗教はあまり身近ではないのですが,海外では気にしなくてはいけない要素です.
マレーシアにおけるムスリムの割合は61%
マレーシア国民の61%がムスリムです.
マレーシアの国教はイスラムで,ムスリムが国民の過半数を超える一方で,多民族国家らしい多様性が保たれています.
2010年と古い統計になりますが,Malaysia国民の宗教別人口割合は下記になります.
→ Department of Statistics Malaysia : 2010年版国勢調査
ムスリムが多数派を占めていますが,一方で他宗教の人たちも30%近くいます.
主に,華僑(先祖が中国から渡ってきた子孫)と印僑(先祖がインドから渡ってきた子孫)が非ムスリムです.
ポイント
マレーシアの国教がムスリムで,政治家のほとんどがムスリムであるため,国全体としてイスラムを重視していますが,他の宗教を弾圧しているということはありません.
マレーシアにおける宗教対立
私はマレーシアいますが,大きな宗教対立に関するニュースを聞いてことがありません.
異なる宗教が調和
街中を歩いているとイスラムのモスクから数百m先にキリスト教会や仏教の寺院が建てられています.
無宗教の外国人としてマレーシアに住んでいる私から見ても,同じ国の中で異なる宗教同士の人が調和して生活している姿には感嘆します.
民族対立はあるけれど宗教対立は少ない
1969年に民族対立により死傷者が出たことはありますが,理由は宗教ではなく,富の不均衡がもたらした惨劇でした.
マレーシアにおける信仰の自由
マレーシアには信仰の自由があります.
多民族から構成されるマレーシアにおいて宗教の自由は自然なこととも言えるのですが,実際にマレーシアに住んでみると異なる宗教を信じる人たちが仲良く暮らしている光景はとても微笑ましいです.
しかし,マレーシアにおける宗教には問題もあります.詳しくは次の記事をお読みください.
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マレーシアの治安は良い
イスラム国家というと宗教犯罪を思い浮かべるのではないでしょうか?
私は2年間マレーシアで生活をしていますが,「マレーシアの治安は良い」です.
外国人でも安全に生活できる
夜道を歩いていても怖い思いをしたことはありませんし,私の同僚でも犯罪に巻き込まれた人は1人もいません.
基本的な注意をしていれば,比較的安全に生活をすることができます.
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イスラムは本来争いを好まない宗教
イスラムというと争いの多い宗教という印象を持っている人もいますが,イスラム自体は争いを好まない宗教です.
一部の原理主義者がイスラムの教典を曲解して,争いを起こしているだけであって,本来は平和な宗教です.
ポイント
イスラムの教えとマレーシア人の穏和な性格と合わさって,マレーシアは治安の良い国となっています.
マレーシアの国教はなぜイスラム?
そもそも,マレーシアの人口60%ほどがムスリムとなっているほど,マレーシアでイスラムが普及しているのでしょうか?
中世にマラッカを訪れたムスリム商人
マレーシアは中東と東アジアをつなぐ重要な位置にあり,マレーシアのマラッカは貿易都市として栄えました.
マレーシアにイスラムをもたらしたのは中世においてペルシャ,アラブ,インドからやってきたムスリム商人たちです.
マラッカに立ちよるムスリム商人たちがマレーシアにイスラムを広めて,15世紀半ばにはマレーシアにおいてイスラムが広範囲で信じられるようになりました.
マレーシアのマレー系住民はほぼムスリムです.マレーシアの政治家はマレー系ムスリムが占めており,国の運営においてもイスラムの影響がみられます.
ポイント
マレーシアにおいて国教がイスラムであることは,大部分の国民(特に政治家)がムスリムであることを考えると自然なことです.
イスラムを理解するための参考図書
国全体はイスラム国家ではありますが,少しの気遣いをすれば宗教に関連した”いざこざ”に巻き込まれることもなく生活することができます.
Islam教全般の基本知識については,内藤正典著『となりのイスラム 世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代』が良い参考書になります.
マレーシアのイスラムが「ゆるい」所
イスラムというと厳格な宗教で,信者に対する戒律が厳しいことで有名です.
マレーシアのムスリムたちはイスラムを熱心に信仰していますが,マレーシア独特の状況もあり,中東の国に比べると「ゆるい」面が浮かび上がってきます.
マレーシアにおけるイスラムのゆるさ
私がマレーシアに住んでいて,イスラムの人たちと仲良く暮らしていける理由は「マレーシアにおけるイスラムのゆるさ」にあると考えています.
具体的には次のようなことです.
マレーシア・イスラムのゆるい所
- 非ムスリムの人が国内で豚肉・酒を飲んでいることを許可
- クリスマスなど他宗教の祝祭・祝日がある
- 非ムスリムの女性は肌を露出できる
- ムスリムの女性でも顔は隠さない
- 女性の社会進出が進んでいる
豚肉・お酒が買える
イスラムで有名なことは「豚肉・お酒の禁止」です.
私がマレーシアに旅行で初めて訪れた時に,街中のスーパー・マーケットで豚肉・お酒が買えると知った時は驚きました.
マレーシアには非ムスリムの人口が40%ほどいて,特に華僑は豚肉を使った料理をよく食べますので豚肉は市場で流通しています.
お酒は酒税のせいで高いですが,それでも堂々と販売をされています.
イスラム国家なのに豚肉・お酒の販売を禁止していないところは,多民族国家のマレーシアらしいです.
ただし,昨今は首都クアランプールでお酒の販売を取り締まる動きが出てきています.
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他の宗教の祝祭がある
12月に大型商業施設を訪れると巨大なクリスマス・ツリーが飾られています.
毎年10月にはヒンドゥー教の祝いDewaliで祝日があります.
イスラムというと排他的な印象がありますが,マレーシアでは多民族国家で,それぞれの民族が信仰する宗教を尊重しながら調和しています.
ムスリム女性の平等
ムスリムの女性は経典コーランに書かれている教えに従い,「女性の魅力的な部分を隠す」ことを強いられています.
経典解釈によって「魅力的な部分」は異なります.
私が中東諸国を旅行で訪れたときは,女性は目だけが見えて全身黒装束でした.
しかし,マレーシアではムスリムの女性であっても髪は隠していますが,顔は出しています.人によっては髪を隠す布ヒジャブを被っていません.
女性の露出度が少し高いからといって信仰心が薄いという訳ではないと思うのですが,私としてはマレーシアにおけるムスリム女性の服装が新鮮でした.
イスラムの国によっては女性は教育を受けられない,車の運転ができない,仕事ができないなどの規則がありますが,マレーシアには一切ありません.
女性に対する差別がないという点においてマレーシアのイスラムはいい意味で「ゆるい」です.
マレーシアの宗教上の禁止行為は?外国人でも気をつけたいマナー
マレーシアのイスラムは比較的穏やかな慣習が見られますが,外国人としてマレーシアを旅行したり,生活するならば気をつけることがあります.
マレーシア在住の私が実際に気を付けていることは,次の4点です.
イスラム関連の禁止事項
- 断食の時期,食事を取るときはMuslimの目の前で食べない
- 豚肉を食べる・お酒を飲む場所は限られた場所だけにする
- 宗教について公共の場では議論にしない
- 肌の過度な露出は避ける
「なんだ大したことがない」と思った方も多いと思いますが,節度を持って生活をしていれば宗教に関連した「いざこざ」に巻き込まれる可能性は低くなります.
断食の時期はムスリムの目の前で食べ物を食べない
『ラマダン』とは,イスラム暦の9月に行われる断食をともなうイスラムの祈祷です.
イスラム歴に基づいて『ラマダン』の時期が決まるので,太陽暦を採用している日本の暦からみると毎年『ラマダン』の時期はずれます.
ラマダンの時期,ムスリムは日の出から日の入りまでの間,断食を行います.
水を飲むことは許されているようですが,厳格な信者の人は自分の唾さえ飲み込まないといいます.
私がラマダンの時期に気を付けていることは,ムスリムの同僚の前でお菓子などの軽食を食べないようにするということです.
相手が空腹を耐え忍んでいるので,お菓子を食べるのは自粛をしています.
本当にお菓子が食べたいときは,周りにムスリムの同僚がいないところでこっそりと食べるようにしています.
ラマダンの時期は,ムスリムの同僚の集中力が明らかに落ちています.弱っているなというのが横目でわかります.
定時になると,同僚は残業もせずに帰宅します.家までの途中で持ち帰りのご飯を買って,日没後に家族と食事をします.
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食べ物はハラール料理
イスラムは食事に関して,口にして良い食事を定めています.
この戒律を「Halal(ハラール)」と呼びます.反対に,イスラムで食べることを許可されていない食事を「non-Halal(ノン・ハラール)」と呼んでいます.
豚肉・お酒が代表的なノン・ハラールの対象です.
マレーシア人口の60%がムスリムですので,Halal料理を提供するお店が多いです.
一方で,華人,India系も一定数いますので,non-Halalのお店も多いです.
お店の前に,「Halal」の標識がなければ,「non-Halal」を意味します.
マレーシアでも新鮮な豚肉は購入可能
スーパー・マーケットの表部分は「ハラール」の食品を陳列していて,奥の方に行くと「ノン・ハラール」の食材(豚肉,お酒)が置いています.
イスラム国というと新鮮な豚肉は手に入りにくいと思われがちですが,マレーシアでは探せば美味しい豚肉が手に入ります.
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ハラール料理以外を食べるときは周りを確認
ノン・ハラールのお店は比較的簡単に見つけることができて,ノン・ハラールの食品を食べること自体は問題ないのですが,ムスリムの方の前で食べることは控えたほうが良いです.
お店自体がHalal/non-Halalで分かれているので,特別気をつけることはないのですが,公共の場所で食べる際は周りをご確認ください.
食器が共用の場合,ノン・ハラール食材に触れたものは消毒しないとムスリムは使えません.
共用の食器でノン・ハラール食材を食べる際は気をつけます.
また,日本のお土産をMalaysiaの友人に渡すときも気をつけています.
豚肉やお酒の入ったお土産でなくても,基本的にはHalal認証をもらっていない場合は,ムスリムは口にできない可能性があるので直接友確認した方が良いです.
宗教について公共の場では議論しない
イスラムというと一部の原理主義者による過激な暴力活動,排他的な性格が強調されがちですが,実際は非常に温厚な人々が多いです.
とはいえ,無用に宗教の話題で議論することは避けた方が良いです.
2020年10月,フランスで起きたIslam教預言者の風刺画をめぐる教師殺害事件の後,Marcon首相は表現の自由のもとに預言者の風刺画を擁護するような発言をして,世界各国のIslam教国家から批判を受けました.
その後,マレーシアのJAKIM(Malaysia Islam教発展団体)は,預言者の風刺画を作成したCharie Hedbo社を批判しました.
さらに,"Dr. D"こと,Mahathir元首相は『目には目を』発言でFrance人殺害の正当性を唱えて問題となりました.
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参考Mahathir元首相「フランス人には,目には目を」発言,Twitter社削除【マレーシア雑記】
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普段の生活であえて宗教の話題をすることはないと思います.
ポイント
宗教の話題は時には知らなかったでは済まされないくらい,相手の逆鱗に触れてしまうことがあるのでお気を付けください.
肌の露出が過度な服装は避ける
マレーシアは,性には非常に保守的です.
東南アジアの国の中でもタイは性に関して開放的な雰囲気がありますが,マレーシアは全然違う雰囲気です.
マレー系の女性は,足首から手首まで全身の肌の露出を避けています.さらに,髪を隠すような布を頭にかぶっています.
伝統的な服装は体型も隠すようになっています.
最近の若い女性は現代的な服装とヒジャブ(髪の毛を覆う布)をうまく組み合わせて,おしゃれを楽しんでいます.
外国人であっても,あまり刺激的な格好をして外出をしない方が良いです.ムスリムではないのであえて,ヒジャブを着用する必要はありません.
肌の露出があっても直接注意受けることはありませんが,不快感を周りに与えている可能性があります.宗教的な場所に入場する場合は,必ず肌の露出を避けるように指示を受けます.
人気の日本マンガ『進撃の巨人』の中でも,巨人が裸であることが検閲で問題となったといわれており,マレーシア版では巨人がパンツを履いている表現に変更がされています.
The Attack on Titan manga in Malaysia is very different.....
There the titans wear a pair of underwears because of the censorship laws there💀 pic.twitter.com/1VTlHA3A0Y
— ウォリー⚡ (@WallyyTheGreat) February 2, 2021
まとめ:マレーシアのイスラム教徒率は60%超え,多民族国家の調和性で治安も良い
マレーシアは,日本人の移住先ランキング高順位に位置するほど日本人にとっても住みやすい国です.
マレーシアの宗教イスラムについては,日本人にとって知識が少ないかもしれませんが,相手を理解しようとする心づもりを持ってマナーを守ればいざこざは避けることができます.
ポイント
- マレーシア人口におけるムスリムは63%
- マレーシアのイスラムはゆるいけれどマナーは大事
- イスラムと他の宗教の間で宗教対立は少なく治安は良い
マレーシアの国教であるイスラムは多くの日本人にとっては馴染みのない宗教ではありますが,基本的な気遣いができれば普段すれ違いで問題になることはありません.
子どもの頃学校で教わったように,相手の気持ちを考えて行動するということが,何よりも大事です.
無知よりも相手を知ることが大事ですので,イスラムの基本知識は学ばれることをおすすめします.
本記事をここまでお読みいただきありがとうございます.
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