マレーシアで生活する上で,宗教が理由で行動が制限することがあるのですか?
普通にマレーシアで生活する上では,信仰の自由が認められており,宗教を理由に行動を制限させることはないですよ.
マレーシアに移住するにあたり,マレーシア国教のイスラムについて不安がありませんか?
本記事は次のような疑問に応えるように書きました.
マレーシアにおける信仰に関する疑問
- マレーシアには宗教警察がいるって本当?
- マレーシアの宗教問題は何がありますか?
- マレーシアには信仰の自由がある?
本記事は次のような方に向けて書きました.
こんな方におすすめ
- マレーシアに住んでいる方
- マレーシアにこれから移住予定のある方
- マレーシアでの宗教について興味のある方
私はマレーシアに2年住んでおり,現地で仕事をしています.無宗教の外国人としてマレーシアで住む感覚は理解しています.
ムスリム(イスラム教徒)の友人もたくさんいるので,ムスリムの他宗教に対する考え方も日常的に意見を聞いています.
マレーシアでは憲法で「信仰の自由」と「表現の自由」を保障しています.しかし,宗教に関する問題は根深くあります.
本記事の内容は次になります.
本記事のポイント
- マレーシアでは信仰の自由が認められている
- 宗教警察がいてムスリムの行動を取り締まっている
- ムスリムの子どもはムスリムとなる「宗教法」がある
外国人としてマレーシアに暮らす分には最低限のマナーを守れば宗教関連の争いに巻き込まれることはありませんが,マレーシアの宗教については最低限の知識が必要です.
日本人にとっては「信仰の自由」は当然の権利と認識されていますが,宗教を持っていることが大部分の大部分のマレーシアでは少し事情が異なります.
マレーシアに関する宗教については次の記事でも解説しましたので,あわせてお読みください.
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マレーシアの宗教はイスラム | ムスリム割合は60%【マナーで気を付けたい禁止行為】
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マレーシアにおけるイスラムの地位・宗派
統計は古いのですが2010年時点の統計では,マレーシア人口の61%がムスリム(イスラム教徒)です.
→ Department of Statistics Malaysia : 2010年版国勢調査
人口の大多数がムスリムであることから,政治,文化,生活のあらゆる面でイスラムの影響は強いです.
マレーシアにおけるイスラム宗派はスンニ派
イスラムの宗派には大きく分けて「スンニ派」と「シーア派」があります.世界的なムスリム人口の中で90%はスンニ派といわれています.
マレーシアのムスリムについても,大部分はスンニ派です.
少数派のシーア派の教条を学ぶことは禁じられていませんが,多くの人にシーア派の教えを広める宣教は制限されています.
→The World : Malaysian government to Shia Muslims: Keep your beliefs to yourself
「スンニ派とシーア派のどこが違うの?」と疑問を持たれている方は,アニメで解説したコアラ先生のYouTube動画がおすすめです.
イスラムは優越的な宗教
憲法の中に信仰の自由はありますが,同時にマレーシアにはイスラムの優越性があります.
連邦国憲法第3条は,イスラムのマレーシアにおいて特別な地位にあることを認めています.
マレーシアの政治家はマレー系が大半を占めており,マレー系はほぼムスリムです.ムスリムが政治を行なっているマレーシアにおいては,必然的にイスラムが優越的な立場となっています.
マレーシアの法体系は世俗法とイスラム法の2本柱
マレーシアにはシャリーアと呼ばれるイスラム独自の法律があります.本記事では簡単にイスラム法と呼びます.
シャリーア(Shari'a)は,イスラム教の経典コーランと預言者むはんまどの言語(スンナ)を方言とする法律.(出典:Wikipedia)(
マレーシアの世俗法(民法・刑法)とは別に,イスラム法があります.
イスラム法はムスリムに対して適用される法律で,世俗法と併存して機能します.
マレーシアの宗教警察
Malaysiaには宗教警察(moral police)が存在します.
宗教警察の目的はムスリムたちがイスラムの教えを従順に守ることを監視することです.
イスラム法に則り取り締まり
マレーシアには世俗法とイスラム法の2本柱あることは前の章で書きましたが,宗教警察はイスラム法に則しています.
例えば,21歳以上の人がお酒を飲むことはマレーシアでは「合法」ですが,ムスリムがお酒を飲むことはイスラム法で禁じられています.
もしも,街中でお酒を飲んでいるムスリムが見つかると宗教警察に逮捕されます.
イスラムの禁止事項
イスラム教の禁止事項として次のような項目があります.
イスラム教の禁止事項
- 豚肉を食べる・お酒を飲む
- 公共の場所でキスをする
- 同性愛
お酒を飲んでいるところを見つかってしまい,逮捕されたムスリムの人を知っています.数日の拘束及び罰金の処罰となったそうです.
マレーシアでは同性愛を認めておらず,同性愛者であることが宗教警察に見つかると罰則を受けます.
実例では,ムスリムの女性2名が同性愛を理由に有罪判決を受けて,公開の場で「つえ打ち」の刑が処されました.
→ BBC : 同性愛の女性2人に公開つえ打ち刑 マレーシア
日本人は宗教警察の対象外
マレーシアの宗教警察はムスリムを取り締まることを目的にしているので,イスラムを信仰していない日本人は宗教警察に捕まることはありません.
マレーシアにおける信仰の自由と問題点
マレーシアには信仰の自由があります.
多民族から構成されるマレーシアにおいて宗教の自由は自然なこととも言えるのですが,実際にマレーシアに住んでみると異なる宗教を信じる人たちが仲良く暮らしている光景はとても微笑ましいです.
「信仰をする自由」と「信仰をしない自由」
マレーシア連邦国憲法第11条にて,信仰の自由を定めています.
信仰の自由とは,次の3つの自由を含みます.
- 信仰する宗教選択の自由
- 宗教活動の自由
- 布教活動の自由
したがって,「宗教を信仰しない自由」はマレーシアで認められています.
ポイント
私のようなイスラムを含めてどの宗教も信仰しない人間でも,マレーシアでは宗教で制限や差別を受けることなく生活ができます.
宗教問題に関する国連の指摘
表面上は平和なマレーシアですが,宗教に関する問題が全くない訳ではありません.
2017年,国連の査察団がマレーシアを訪問した際に少数派宗教に対する差別を指摘しています.
国連の報告書によると,信仰の自由と表現の自由に関して懸念が指摘されています.
→ Forbes: Religious Freedom In Malaysia Under Microscope
- 少数派宗教に対する差別
- 権威批判に対する取り締まり
- イスラムを棄教したへの批判と訴追
- イスラムから改宗しようとする人への差別
- 非ムスリムが「神」を表す言葉を使用することを禁止
- イスラムが制限する個人の自由による,子どもへの差別
外国人としてマレーシアで暮らしている間は宗教による圧力を感じることは少ないですが,ムスリム同士の社会では圧力がかかるようです.
クリスマス・ケーキの販売禁止?
笑い話のようではありますが,2020年12月「Happy Merry Christmas」と書かれたクリスマス・ケーキをHalal認証を受けたお店は飾ってはいけないという宗教団体からのお達しが出ました.
→The Star: Halal-certified shops can't display cakes with Merry Christmas greeting, says Jakim
信仰の自由と表現の自由を考えると不適切な通知に思えますが,イスラムの優位性があるので黙認されています.
日常生活では「Happy Christmas」や「Happy Dewali」などを話しても宗教警察に捕まることはありません.
12月はどこの大型商況施設は,クリスマス・ツリーを飾って,赤い服を着て白い髭を生やした,おじさんがいますが,宗教団体からの抗議はないようです.
イスラムを改宗・棄教することはご法度
信仰の自由はありますが,宗教の対称性はありません.
他宗教からイスラムへの改宗は認められていますが,イスラムから他の宗教への改宗は犯罪行為とみなされます.
イスラムの棄教は憲法第11条第3項で制限されているだけでなく,多額の罰金と懲役刑が伴います.
マレーシアのPerak州では,Islam教を棄教した人に対して,2年間の懲役か$730(日本円 約8万円)の罰金が課せられます.
ムスリムをやめるということに対して宗教的にだけではなく,法律的にも厳しい制裁を課す制度になっています.
信仰の自由を憲法では認めていますが,実際はかなり厳しい制限があります.
ポイント
マレーシア憲法はイスラムを特別な位置付けにおいているがゆえに,ムスリムであり続けることを求めて,ムスリムに対して厳しい戒律を守らせています.
次に,自分がMuslimではないことを証明するために5年間かけて法廷で戦った女性の記事が目に留まりましたので最後に紹介します.
5年間かけて仏教徒であることを証明した女性
信仰の自由があるマレーシアですが,ムスリムに対してはイスラム教が適用されるため個人の信仰の自由よりもイスラム教が優越的に適用される現実があります.
本記事では自分の信仰を認めさせるために法廷で争った女性の話を紹介します.
未婚Muslimの父と仏教徒の母から生まれたRosliza Ibrahimさん(報道時点39歳)が,自らはムスリムではないことを5年間かけて法廷で争いました.
ムスリムであることを生涯否定
39歳のRosliza Ibrahimさんが持っている身分証には,宗教がイスラムと登録されています.
しかし,Roslizaさんは自身が仏教徒であると主張しています.
そして生まれてから一度もムスリムであったことはない,と.
39年間の人生,Roslizaさんは社会的にはムスリムと認定されていますが,自身はムスリムであることを否定して生きてきました.
ムスリムは生まれながらにしてムスリム
どこで認識のすれ違いが生じたかというと,イスラム教は「ムスリムは生まれながらにムスリム」と定めている点にあります.
ポイント
マレーシアのイスラム教によれば,両親がムスリムの場合,子どもは生まれた時からムスリムになります.片親の場合も同様です.
Roslizaさんの(生物学的な)お父さんはムスリムで,一方のお母さんは仏教徒です.
両親が結婚していれば,イスラム教によりRoslizaさんはムスリムとなります.
しかしお父さんとお母さんは結婚することがないまま,Roslizaさんは生まれ,お母さんに育てられました.
Roslizaさんはお母さんと同じ,仏教徒になったと主張しています.
ムスリムと非ムスリムはMalaysiaでは結婚をすることができません.非ムスリムの人がイスラムに改宗しなくてはいけません.
裁判の争点
Roslizaさんは自分の宗教を公的に「修正」するために,裁判を行います.
今回の裁判の争点は私たち日本人にとっては多少把握しにくいところがあるので論点を整理します.
裁判での論点は,
- Roslizaさんの両親は結婚をしていたか?
- Roslizaさんの母親はムスリムであったか?
- 係争は連邦裁判所か宗教裁判所のどちらで行うか?
女性側の論点は,次になります.
- 両親は結婚をしておらず,Roslizaさん自身は合法的な子供ではないので一度もムスリムであったことはない
- 連邦直轄領および11の州で自身の母および母の血統にイスラムに改宗した人がいる記録がない
- 連邦裁判所の判決で,非ムスリムであるという宗教的な状態は,民事裁判所で決められるべきで,Syariah裁判所(Isram教に関する宗教裁判所)で決めることではない.
民事裁判所 vs 宗教裁判所
今回の連邦裁判所の判決で鍵となるのは,
ポイント
- 高等裁判所が排他的な権力を持っているかどうか
- 高等裁判所が唯一の裁判所としてムスリムかどうか判定できる権限を持っているか
Roslizaさんの弁護士は,Roslizaさんの申し立ては「ムスリムがIslam宗教を棄教する」と勘違いされていると指摘しています.
結果的に,Roslizaさんの申し立ては勘違いゆえに,民事裁判書で議論されることなく,Syariah裁判所(宗教裁判所)へ一時的に移管されることになってしまいました.
ムスリムに関するSelangor州の法律は彼女には適用されず,Selangor州のSyariah裁判所は彼女に対して法的な効力を持たないことを主張しています.
ポイント
少し議論が少し内部矛盾を引き起こしていますが,ムスリムであるかどうかをめぐる裁判を宗教裁判所で行うのが正しいのか.宗教裁判所が裁くべきはイスラム教に関する事柄です.
裁判の行方
Selengor州の法律顧問Datuk Salim Soibさんは,Selangor州のIslam教法令2004登録第2項に照らし合わせて,「ムスリム」の定義とは「出産の際に両親のどちらか一方がムスリムである」と定められていることを指摘しています.
Selangor州の法律顧問は,RoslizaさんはMuslimの父から生まれた以上,第2項によりMuslim教であると主張します.そして,「宗教裁判所はRoslizaさんの宗教について決める権限がある」と主張しています.
Roslizaさんは両親が結婚していなかったことを証明していますが,反対側の弁護士は,ICに登録された情報を参照して,「両親は結婚をしており,従ってRoslizaさんは生まれながらのMuslimである」と主張します.
反対側のAbdul Rahim弁護士は.結婚に関する正式な証明書がないとしても結婚していたと出張しています.
イスラム法によれば,双方が結婚に合意して,立会人を宗教裁判所に召喚することで登録がない結婚を認めています.
連邦裁判所は2020年12月,後日判決を言い渡すことを告げていますが,2021年2月判決が出ました.
裁判判決:ムスリムではない
5年に渡る裁判を得て,連邦裁判所で女性が非ムスリムである判決が満場一致で言い渡しました.
連邦裁判所は,Roslizaさんが提出した証拠を認めました.
母親がMuslimであったことはなく,また両親が結婚した事実がないことが正式に裁判所で認められたことになります.
なぜ棄教を選ばなかったか?
Roslizaさんは生まれながらにしてMuslimでなかったことを証明しました.
しかし,なぜ最初からIslam教を棄教しなかったのでしょうか?
(信仰していなかった)イスラムを棄教して,仏教に改宗する方法もあったはずです.そうすれば,自分が認識する仏教徒になることが簡単にできたはずです.
しかし,MalaysiaではIslam教を棄教・回収することは簡単ではないのです.
Roslizaさんの場合もIslam教を棄教するということは,2つの点で選べなかったのでしょう.
- 信仰していないイスラムを棄教するということは,イスラムを信仰していたことを黙認してしまう
- イスラムを棄教することで,社会的に抹殺されてしまう
Roslizaさんの例を紹介しましたが,国連が指摘しているようにマレーシアの宗教感は根の深い問題があります.
まとめ:マレーシアの法律はムスリムに厳しく根深い問題がある
マレーシアの人口のうち,60%以上がムスリム(イスラム教徒)です.
マレーシアで普段生活する上では宗教のことで表現の自由が問題になることはありません.
マレーシアでは信仰の自由が認められていますが,実際はイスラムに関しては根深い問題が隠されています.
イスラムに対する批判はもちろん,イスラムの棄教・改宗は法律上も罰せられることになります.宗教警察が街にはいて,ムスリムたちが戒律を守っているか監視をしています.
マレーシアを知る上ではイスラムは外せない要素なので,これからもイスラムについて知識を身につけていきたいと思います.
ここまで本記事をお読みいただきありがとうございました.
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