世界中の企業が,supply chain一国依存の危険性に気づいたいま,生産拠点の一部を中国からVietnamに移転する潮流をnewsで聞きました.
Malaysiaはなぜ脱中国の選択肢で注目されないのか気になっています.
私はMalaysiaに駐在して2年になります.
世界中が”China plus one”として,Vietnamは製造拠点として注目を集めています.しかし,MalaysiaはVietnamに比べて外国企業の投資を呼びこめていません.
私なりに,Malaysiaがなぜ脱中国の潮流に関して,Vietnamに遅れを取っているか3つ理由を考察してみます.
統計に見るMalaysiaの経済発展の悩み
2020年,過熱している米中貿易戦争を皮切りに,新型肺炎による経済活動の停止を経験して,世界各国の企業はsupply chainの見直しを迫られています.
Globalで経済活動をしている製造業は,risk回避のために中国の次の「世界の工場」となる国を探しています.
東南Asiaの中で,一番注目を浴びているのはVietnamです.
Malaysiaではないのです.
GDPと対内直接投資金額を見ることで,Malaysia,Vietnam両国の勢いを比較してみます.
一人当たりのGDP,Malasyiaは停滞,Vietnamは伸び盛り
まず,MalaysiaとVietnamのGDPを比較してみます.
Look East政策による経済成長
1981年にDr. MahathirがMalaysia首相に着任すると,Look East政策を採用して,日本,韓国を規範として国の将来像を描きました.
日本との人材交流は盛んに行われ,産業では製造業を中心に国力を高めることに成功しました.
2018年の統計では,MalaysiaのGDPはUS$ 3,586億に達して,一人当たりのGDPはUS$ 11,373となっています.
すでに中所得国に仲間入りしてMalaysiaですが,いわゆる『中所得国の罠』に嵌っています.
2011年から2019年の8年間,一人当たりのGDPは,US$10k-12kの区間に閉じ込められています.
Vietnamの経済成長は続く
Malaysiaが経済発展の次なる一歩を模索している一方,隣国のVietnamは着実に経済発展を遂げています.
Vietnamの一人当たりのGDPは単調増加を続けており,2011年から2019年までに一人当たりのGDPは1.8倍に増えています.
MalaysiaとVietnamのGDP比較
MalaysiaとVietnamの2国について,一人当たりGDPの遷移を一つのgraphにまとめました.
2019年現在では,Malaysiaの一人当たりGDPは,Vietnamの4倍あります.
Malaysiaの方が圧倒的に”裕福”であると言えます.
GDPの伸び率で言うと,2011年から2019年までの8年間で,Malaysiaは10%しか伸びていないのに対して,Vietnamは80%も伸びています.
一人当たりGDPの伸び率が一定であるとすると,次の20年でVietnamはMalaysiaを一人当たりGDPで抜き去ります.
Vietnamの方がMalaysiaよりも人口が多いので,GDP比で言うともっと早くに追い抜くでしょう.
一人当たりのGDPが伸びることで,今後の国内市場の伸びも期待できることから,より伸びる余地の大きいVietnamに注目が集まっています.
対内製造業投資金額にみる脱中国の生産拠点
次に,MalaysiaとVietnamの対内製造業投資金額の比較をみてみます.
JETROの資料を参考に,製造業に対する(外国から)対内投資金額を比較してみます.
2018年時点で,Malaysiaの対内製造業投資は約US$ 29億(GDP比0.8%),Vietnamは約US$ 147億(GDP比5%)でした.
Vietnam向けの対内製造業投資金額は,Malaysiaの5倍規模になることが分かります.
Vietnamという国が海外からの投資を呼び込んで,製造業としての地位を高めているか数字からも読み取れます.
2017年から2018年にかけては,対内製造業投資金額の推移は大きな変化がありませんが,米中貿易戦争の影響で今後の推移に注目です.
なぜMalaysiaが第2の「世界の工場」となり得ないか考察
製造業の生産拠点選定の要点は大きく3つあります.『QCD(Quality(品質),Cost(価格),Delivery(供給)』の観点で分析してみると,Malaysiaの弱点は,CostとDeliveryに現れます.
Quality(品質)に関しては,外資企業場合,品質保証部が直接現場指導を行うので,国ごとに品質がバラつかないように管理体制が構築されます.
しかし,Cost(価格)とDelivery(供給)は国内状況に大きく依存して,uncontrable(外部要因)となってしまいます.
理由1:Malaysia人件費の高騰,Vietnamの2倍の賃金
Cost(価格)の面で理由を考察してみます.
同じ品質の製品を作れるのであれば,製造原価の最も安いところで生産したいと考えるのが経営者の判断です.
工場出荷時の原価のうち,およそ60%が原材料を占め,20-30%程度が人件費になります.残りの10%は会社の利益になります.
Malaysiaは,製造業で必要な原材料,組み立てに必要な部品を全て現地で調達することができません.
主な材料は中国からの輸入に頼っています.Vietnamも同じ状況で輸入した部品を組み立てています.
MalaysiaとVietnamでは,製造原価に占める材料費はほぼ同じになります.従って差が出てくるのは人件費ということになります.
おおよそではありますが,工場組み立て作業員の給料は
- Malaysia $4-6/時(日本円 420-630円)
- Vietnam $2-4/時(日本円 210-420円)
例えば,同じ材料(60円)を仕入れて,Malaysia,Vietnamそれぞれで製造すると,Malaysia工場の製造原価は130円,Vietnamの製造原価は100円になります.
たかが30円の差ですが1,000万個製造すると総計で3億円の差になり,経営指標に大きな影響を与えます!
理由2:外国人労働者頼みの製造業,矛盾する外国人受け入れ政府対応
Delivery(生産供給)の面で理由を紹介します.
Malaysiaは,工場の労働人口が少なく必要な工員を雇用するのが難しい現状があります.
製造業の組み立てlineには,数十人の工員が並んで製品を組み立てます.
私も現場を何度も訪問していますが,細かい導線を一本一本組み合わせたり,ネジを何箇所も取り付けたりする作業を,教育された工員の方が1日8時間もされている工程は圧巻です.
製品を作るための部品(樹脂部品,金属部品やネジなど)は,機械で自動的に製造できるので直接工員を比較的少ない人数雇用すれば生産をできます.
しかし,製品を最後組み立てる工程だけは細かい組み立て作業が加わるため,自動化が難しく人の手が求められています.
2018年統計で,Malaysiaは人口3,153万人です.
一方のVietnamは人口9,554万人でMalaysiaの3倍規模になります.
豊富な人口を抱えているVietnamの方が製造業にとって良い環境になります.
Malaysiaの製造業の内26%(凡そ4人に1人)を外国人労働者に頼っています.
外国人労働者がいないと成り立たないMalaysiaの製造業ですが,Malaysia政府は矛盾した対応を採択しています.
- 2018年末から外国人労働者の間接雇用禁止
- 2020年末まで新規外国人労働visaの発行停止
人材派遣を通した外国労働者の間接雇用を禁止したことで,企業は直接雇用をせざるを得なくなり,雇用費増加,生産季節性変動の柔軟力低下の悪影響を受けています.
Malaysia国内はただでさえ労働力が不足しているのに,頼りの外国人労働者の新規受け入れを止めれば製造業への影響は免れません.
政府の指針としては,工場内で外国人労働者に頼っていた職をMalaysia人雇用に充てるように促すものです.
しかし,そもそもMalaysia人がやりたがらない3Kの仕事を外国人労働者が代わりに行っていたのに,今更ながらMalaysia人が低賃金の仕事をすすで行うとは思えません.
Malasyia政府としては,Industry 4.0を促進して産業の高度化,高度人材の育成を図っていますが,目下の労働力不足に対する解決策は打ち出せていません.
Malaysia国内の雇用主が,外国人労働者,駐在員と雇用をする前に,まずMalaysia国の求人site「MyFutureJobs」に広告を掲載しなければならない規則が制定されようとしています.
外国人に割り当てられる職を優先して,Malaysia国籍に割り当てようとする政府の狙いがあります.
→FMT: New expat hiring rules to facilitate employment of locals, says Saravanan
新型肺炎の影響で,国内の失業率が高まっていることを受けて対症療法です.
今後,高度な技術で新しい製造国としての地位を確立しようとするMalaysia.
外国人駐在数を受け入れることに抵抗を示しているようで,今後の技術輸入に関して懸念が残ります.
理由3:自由貿易戦略,海外輸出を目指したVietnamの貿易協定
理由3つ目として,製品を完成させた後の輸出戦略について書きます.
一拠点での大量生産,海外市場への輸出を基本とする製造業では,関税は非常に大きなcost(価格)の決定要素となります.
工場出荷時の製品あたり利益率 10%を目指したい製造業としては,20%近い関税を払うことは製品の価格競争力を大きく阻害して,利益を圧迫します.
各国貿易促進のために,貿易協定に関する戦略を策定しています.
例えば,一大消費地である欧州に向けた,MalaysiaとVietnamの貿易協定で大きな差が出ています.
ポイント
- Malaysiaは,欧州とのMalaysia-EU自由貿易協定(MEUFTA)は2012年に交渉が決裂して以来,進捗がありません.欧州のパーム油使用禁止に関わる紛争が,パーム油輸出国であるMalaysiaを代表とする複数カ国と欧州の間で続いており,MEUFTAの締結の目処は立っていません.
- Vietnamは,2019年6月に欧州とEU-Vietnam自由貿易協定(EVFTA)を締結しました.欧州は,Vietnam産輸入品71%の関税を即時撤廃,それ以外の種目についても7年かけて関税を逓減させていきます.
世界の市場で販売をしている外国企業が,自由貿易協定を戦略的に進めているVietnamを選んでいることは当然の流れでしょう.
まとめ
1981年Malaysia首相に着任したDr. Mahathirは,Look East政策で製造業を強化して国力を高めました.
一方,1986年,Đổi Mới政策 (刷新政策)を掲げて,社会主義国家に資本主義を導入することになっったVietnam.資本主義の原則を受け入れ,外国資本を受け入れることで国発展を目指しています.
Malaysiaは中所得国家の仲間入りを果たしましたが,近年成長が鈍化しています.
Vietnamは成長こそ遅れましたが,毎年高いGDPの伸び率を示しています.
米中貿易戦争が過熱し,新型肺炎によるsupplu chain混乱を受けて,各国の企業は製造拠点戦略を見直しています.安い人件費で世界の工場となった中国の次”China plus one”に成るのは,果たしてどこの国でしょうか?
現時点は,MalaysiaはVietnamに3つの理由で製造拠点の座を奪われようとしています.
ポイント
- 高い人件費
- 外国人労働者依存の労働力不足
- Malaysia-EU自由貿易協定の交渉
Malaysiaは労働集約型の産業は卒業せざるを得ないと私は思います.次の製造業の10年を狙えるように,機械・設備産業に投資を行い,基礎研究や高度応用分野で成長戦略を立案するべきです.現行のIndustry 4.0は正しい方針だと賛同します.政府のincentiveの与え方が鍵です.
そしてMalaysia brandの国際企業を育てることも課題だと思います.