「Malaysiaの第2El Salvador」説ですが,議会における副大臣の発言が一人歩きしている感が強く,実際はまだ具体的なことは決まっておらずBitcoinを法定通貨に採用することは決まっていません.財務省の高官が数日後にこの案を否定しています.
2022年3月21日,Twitterを中心として「Malaysiaの法定通貨がBitcoin」となると盛り上がりました.Malaysia在住の人だけでなく,仮想通貨(暗号通貨)に興味のある人々の話題をさらいました.
本記事では実際に「MalaysiaはBitcoinを法定通貨に採用するか」について解説します.
こんな方におすすめ
- Malaysia在住の方
- Bitcoinを始めとする仮想通貨取引に興味のある方
私はMalaysiaで駐在員をしていて,2015年から仮想通貨への投資をした経験があります.
Malaysia現地からの視点として,BitcoinがMalaysiaの法定通貨になる可能性を考えてみます.
Malaysiaでビットコインを法定通貨にする要請
「BitcoinがMalaysiaの法定通貨になる」という話題のきっかけとなったのが,通信media省の副大臣の議会における発言です.
副大臣は政府に対して仮想通貨を法定通貨に定めることを提言しました.
通信メディア省の副大臣が議会にて要請
通信メディア省(KKMM)は2022年3月21日,「仮想通貨を法定通貨(legal tender)に定めるなど,Digital資産を合法化して若い世代を助けること」を提案しました.
→The Star: Comms Ministry proposes adopting cryptocurrency as legal tender
Zahidi副大臣は代議院(Dewan Rakyat)における答弁において,若い世代で人気が出ているNFTに関する質疑の中で内閣の立場を求められて上記の発言を行いました.
NFT(non-fungible tokens,非代替性token)が若者の間で人気であることを背景にした発言です.
Zahidi Zainul Abidin副大臣は「若い世代によるdigital asset分野での活躍を増やす道を探す」と述べました.
MalaysiaはEl Salvadorに次ぐ第2のBitcoin法定通貨国となるか?
中央アメリカに位置するEl Salvadorは2021年9月にBitcoinを法定通貨として採用した世界初の国となり世界に衝撃を与えました.
→日経新聞:エルサルバドル、ビットコインを法定通貨に 大統領表明
2022年3月のMalaysia通信メディア省副大臣の発言により,「Malayisaは第2のEl Salvadorになるか?」とTwitter界隈で賑やかになっています.
しかし,副大臣は議会において野党のNFTに関する質問に答える文脈でBitcoinとNFTについて触れただけで,政府見解ではないことは要注意です.
Malaysia国内では「MalaysiaがBitcoinを法定通貨として採用するかもしれない」という話題はあまり盛り上がっていません.
Malaysia国内ではあまりこの話題は盛り上がっておらず,Twitter界隈が先行して白熱している印象を受けています.
財務省高官がBitcoinの法定通貨採用を否定
2022年3月24日,財務省のShahar Abdullah高官は中央銀行digital通貨を法定通貨とする方針を強調した上で,Bitcoinを法定通貨とする可能性について否定をしました.
Bitcoinを法定通貨として採用しない理由として,次を挙げています.
- 価格の変動性
- Cyberの安全性
- 規模の拡大が困難
- (電気消費量など)環境負荷の増大
He (Mohd Shahar) also explained that, in line with the government's stand, cryptocurrencies such as bitcoin are not suitable for use as payment instruments due to various obstacles including price fluctuations, exposure to cyber threats, lack of scalability, and negative impact on the environment.
Malaysiaにおける仮想通貨(暗号資産)の位置付け
Malaysiaにおける仮想通貨の位置付けについて整理をします.
Malaysia国内では仮想通貨取引は合法的に行うことができて,税制上も仮想通貨取引は優遇されています.
しかし,人口あたりの仮想通貨の利用者数は3%程度で,街中でも仮想通貨を利用して支払いができる場所を見つけることは困難です.
Malaysiaでは認定された取引所で合法的に取扱可能
仮想通貨の黎明期においては,Malaysiaにおいて雨後の筍のように仮想通貨取引所が誕生しました.
しかし,2018年2月にMalaysiaの中央銀行であるBank Negaraは,「暗号資産に関する反マネーロンダリングおよびテロ組織資金供給対策の方針」を発表しました.
結果として,業者への規制が厳しくなり仮想通貨取引業者は淘汰されました.
いまならばRM 25(日本円 700円)相当のBitcoinがプレゼントされるお得情報がありますので,次の記事から口座開設のお申し込みをしてみてください.
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マレーシアで仮想通貨(暗号資産)の始め方【必ずRM25相当のビットコインがもらえるお得情報】【Lunoで口座開設】
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仮想通貨取引に対する税制は優遇されている
日本における仮想通貨取引で生じた利益(損失)に対する取り扱いを考えると,日本で仮想通貨で一財を為すのは税制度上かなり厳しいです.
しかし,Malaysiaでは仮想通貨の取引で生じた利益は非課税で,表面上の利益を100%受け取ることができます.
詳しくは次の記事をお読みください.
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世界第6位のBitcoin採掘国
Cambridge Cetnreの調べによると,2021年8月時点で「Malaysiaは世界第6位のBitcoin採掘国」となっています.
Malaysiaの大手電力会社Tenaga National Bhd(TNB)は国内において2018年はBitcoin採掘関連で610件の電力窃盗を発見しており2021年は7,209件に増加しています.
Bitcoinの価格も2018年から2021年で10倍以上に跳ね上がっているので,犯罪数の増加背景も理解できます.
電力窃盗の犯罪手法としては,電力会社の電力検針員を買収する方法もあるようです.検針員に賄賂を渡して,違法なBitcoin採掘のための電力窃盗を黙らせる犯罪です.
TNBはBitcoin採掘者に対する特別電気料金を提示しました.
これはMalaysia国内における,Bitcoin採掘者による電力窃盗を防ぐためのincentive施策となります.
→FMT: TNB proposes special tariff for bitcoin miners
MalaysiaはBitcoinを法定通貨として採用する段階ではない
「MalaysiaがBitcoinを法定通貨として採用する」という噂の根底には,通信media副大臣の議会における発言があります.
本記事を書いている2022年3月時点では,MalaysiaにおけるBitcoinの法定通貨かに向けた具体的なことは決まっていません.
Malaysia在住の私は3年間の将来のうちに「MalaysiaがBitcoinを法定通貨として採用する」可能性は低いと見ています.
理由としては,次の5つが挙げられます.
ポイント
- 中央銀行digital通貨(CBDC)の検討が始まっている
- 他国との輸出入における通貨の問題
- 国内の政策金利の調整ができない
- 現金以外の支払い手段が普及
- 仮想通貨保有者の低さ
- 所得の追跡が困難
中央銀行デジタル通貨(CBDC)を検討が始まっている
Malaysiaが法定通貨としてBitcoinを採用するよりも,中央銀行digital通貨を採用する可能性の方が高いと私は考えています.
中央銀行digital通貨(CBDC)の開発について2022年1月には中央銀行であるBank Negaraが言及をしています.
→Bloomberg: Malaysia’s Central Bank Studies Need for a Digital Currency
Bank Negaraの見解として,「Malaysiaにおける中央銀行digital通貨の利用価値について評価をしている.中央銀行digital通貨の発行については決まっていないが,概念検証と技術・法整備の受け入れ態勢を確認しながら将来のdigital通貨の採用について研究をしている.」
Malaysiaは2021年9月より,「Dunbar」と呼ばれるprojectに参画して,国際間取引において中央銀行digital通貨を利用する実験を行っています.
このprojectに参画している国は,
- Australia
- Singapore
- South Africa
- Malaysia
Malaysiaが法定通貨としてBitcoinを採用するよりも,中央銀行digital通貨を採用する可能性の方が高いと私は考えています.
他国との輸出入における通貨の問題
Bitcoinを使用した国際取引の法整備よりも前に,Bitcoinを仲立ちさせて輸出入取引を行うことは為替変動が大き過ぎて取り扱いが難しいです.
Malaysiaは,原油,ゴムなどの原材料および加工製品,そして半導体の後工程,電気製品の完成工程をし他のち完成品を輸出しています.逆に,2次加工するための原材料は外国から輸入をしています.
買掛・売掛が発生して一定期間(例えば60日)のち支払われる商習慣において,Bitcoinとの「為替」は60日間のうちに10%以上も変動する可能性があります.
このような不安定な為替ですと,利鞘の少ない企業は値付けをした後から支払いまでの期間における為替差損で利益がなくなります.
ポイント
Bitcoinを使用した国際取引の法整備よりも前に,Bitcoinを仲立ちさせて輸出入取引を行うことは為替変動が大き過ぎて取り扱いが難しいです.
また輸出入に関わる通貨(主にUS$)は様々ありますが,現時点ではBitcoinによる取引は限定的と言わざるを得ません.
2020年のMalysiaの最大の輸出相手国である中国は,そもそもBitcoin取引を禁止していますので,Malaysiaと中国の企業がBitcoinを使用して直接支払いをすることはできません.
国内の政策金利の調整ができない
Malaysiaは一人当たりのGDPはUS$ 1万を超えて中国よりも(個人単位では)豊かな国ということができます.
一方で,インフレ,輸出入の金額を考えると自国における政策金利は経済を制御する上で重要な要素であると言えます.
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ポイント
法定通貨をBitcoinに変更した瞬間に,政策金利の調整という切り札が使えなくなるため好景気・不景気時の温度調整をする制御を手放すことになります.
現金以外の支払い手段が普及
Bitcoinを利用した取引について,日常生活に導入するだけの動機付け(incentive)がありません.
Malaysiaでは現金以外の支払い手段が普及しています.個人間の送金でも手数料タダで行うことができるので,Bitcoinを利用しなくても現時点ではcashlessの支払いは不便なく行うことができています.
従来は現金のみの取引を中心としていた露天商でも,Malaysia政府主導でcashless決済導入が促進されています.
→MalayMail: Next time you buy from a hawker, it could be with a card instead of cash
個人間のお金のやり取りもQR codeを見せ合うことで,手数料無料で送金を行うことができます.日本よりもMalaysiaの方がcashless決済が便利に使えます.
Malaysiaでの日常生活では既にcashless支払いが普及しており,Bitcoinを導入する動機付けが弱いです.
【参考】Malaysiaのmobile決済事情
Malaysiaのmobile決済の主要appは第1位 Grab,第2位 Touch'n Go,第3位 Boostになります.
出典:Entrepreneur GrabPay, Touch n' Go among Malaysia's Most Used e-Wallets, Study Shows
- 第1位のGrabは配車アプリの企業が提供
- 第2位のTouch'n Goは交通系IC card企業が提供
- 第3位のBoostは,通信会社Celcomを運営するAxiata Groupが提供
Malaysia国内ではcashless決済のplatformが一社に確立していないため,Bitcoinにより横断的な支払い手段を提供できるのであればBitcoinを導入する価値はあります.
仮想通貨保有者の低さ
国別のBitcoinの通貨取引量において,2020年時点でMalaysiaは第23位に位置しており,取引額はUS$170億(日本円 1,800億円)でした.
→Statista: Bitcoin trading volume on online exchanges in various countries worldwide in 2020
項目 | 順位 |
Bitcoin取引量(2020年) | 第23位(US$ 170億) |
仮想通貨所有人口(2021年) | 第33位(102万人) |
人口あたりの仮想通貨取引人数率(2021年) | 第25位(3.15%) |
→tripleA: Cryptocurrency across the world
人口あたり3%近くの人しか仮想通貨を保有しておらず,いますぐBitcoinにて日常の決済を行うような大転換は難しいです.
所得の追跡が困難
全ての取引が仮想通貨で行えるようになったとき,政府が国民の所得を把握することが困難になります.
政府が指定した仮想通貨取引所のみでの取引を許すという方法もありますが,匿名性の高い仮想通貨においては,外国にある仮想通貨取引所の口座を迂回した「脱税」も容易になります.
ポイント
中所得国といわれる経済規模を持つMalaysia政府としては,公共福祉のために税金を確実に徴収しやすい自国通貨にこだわると考えられます.
Malaysiaで駐在員として働く私の感想:税務申請が面倒臭い
もしもMalaysiaの法定通貨がBitcoinになり,Malaysiaで駐在員として働いている給料がBitcoinで支払われるようになったらと想像しました.
個人としてはBitcoinを使うことで,国際送金もより簡単かつ安い手数料で行えるようになる期待をしています.
Bitcoinを使った国際送金の方法は次の記事にまとめたのでご参考ください.
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理由は二つで,一つ目は為替変動が大きいこと,二つ目はBitcoinを日本円に換金した時の税務申告です.
税務申告について厄介なことは,日本では「仮想通貨(暗号資産)取引でえた所得は雑所得扱い」となることです.
私がMalaysiaで給料として得たBitcoinを日本の仮想通貨取引所に送金して,日本円に換金したときに雑所得して税務署に申告することになります.そして,税金は「取得単価」と「売却単価」の差益に対して課せられます.
面倒臭いところは,Bitcoinを給料として取得した際の「(Bitcoin)取得単価」を税務署に証明できないと,Bitcoinを日本円に換金した際の「売却価格」が全て課税対象となる可能性があります.
ポイント
本当に給料がBitcoinで支払われると言う未来が来たならば,海外現地法人の経理も税務申告のサポートをしてくれると思いますが,現行のシステムで言うとBitcoinを日本円に換金することは税務上大変な手続きになります.
まとめ:MalaysiaはBitcoinを法定通貨に採用す本格段階ではない
Malaysiaの議会において,通信media省副大臣が「BitcoinをMalaysiaの法定通貨にする」提案を内閣にしました.
Twitter界隈を中心に「Malaysiaが第二のEl Salvador」になると話題が先行して盛り上がりましたが,実際はまだ具体的なことは発表されておらず実際にBitcoinがMalaysiaの法定通貨になる将来は先です.
Malaysiaの中央銀行であるBank Negaraが既に研究を開始した中央銀行digital通貨がむしろ本命であると考えています.
実際に,通産digital省副大臣がBitcoinを法定通貨に採用するように要請した数日後に,財務省副大臣が否定をしています.
Malaysiaに住んでいる私の肌感覚でもBitcoinは普及しておらず,いきなり既存の通貨を置き換えることは混乱を招きます.
近い将来,Bitcoinが主要通貨になれば様々なビジネスも展開されますので今後の展開に注目しています.
MalaysiaはIslam国家ですので,MalaysiaでBitcoinを法定通貨として受け入れることで,独自の経済圏であるIslam経済圏において確立した地位を築くことができると指摘する人もいます.
ここまで本記事をお読みいただきありがとうございます.