2021年1月11日,Muhyiddin首相はKLを含む広域でのMCO(Movement Control Order)を実施することを会見で発表しました.
MCOとしては2回目となるため,”MCO 2.0"と呼ばれています.
MCO 2.0に関する内容と私の感想を紹介します.
首相のMCO会見は1月11日(月)18:00(現地時間)からでした.当日の流れも踏まえて,Malaysiaの雰囲気もお伝えできればと思います.
Pfizer社からの追加ワクチン供給枠確保
Muhyiddin首相によって「CMCOのより厳しいSOPが1月11日に発表される」という事前の告知がありました.
当日は,国民全員がソワソワしながら18:00の会見を待っていました.
Pfizer社のワクチン供給確保
13:00を過ぎた頃に,新型肺炎のワクチンに関する吉報が流れます.
「Pfizer社とワクチンの追加供給1,200万回分の合意をMalaysia政府が得た」という報道です.
→FMT: Putrajaya to buy 12.2 mil more doses of Pfizer vaccine
すでに契約を終えているワクチンの供給枠と合わせると合計で2,500万回の接種数になります.
1人につき2回のワクチン接種が必要ですので,2,500万回は1,250万人分,よってMalaysia国民の40%近くを確保したことになります.
内,1300万回分の接種は2月終わりまでに行われて,国民の20%が接種を受ける見込みです.
2021年疫病に終止符を打つ希望の光
集団免疫の考えからすると不充分なワクチン接種数ではありますが,東南Asia諸国は当初ワクチンの獲得が2022年以降に遅れるという観測もありましたので,ワクチン獲得は現政権の大きな功績と言っていいでしょう.
一方で,欧米の製薬会社からワクチン供給枠を確保するために,”高い買い物”をMalaysiaはしたという話もあります.
いずれにしても,「Pfizer社からのワクチン追加確保」の報道は国民にとって吉報でした.
Malaysia国民の67%は,ワクチン接種に前向きです.
→ NNA:【マレーシア】新型コロナワクチン接種、国民67%が肯定的[医薬]
首相の会見当日に,ワクチン確保の情報を報道機関に政府が流したということは,次に来る首相会見の内容の衝撃を和らげるためではないかと考えました.
先の見えない活動制限令に疲れている国民に対して希望を与えて時間を稼ぐ目的があったのではないかと思います.
ワクチン接種はIslam教徒にも推奨
欧米の製薬企業が開発したワクチンは,Halalに対応しているのですか?Halal対応でないものは,原則体の中に入れられないはずですよね.
Datuk Zulkifli Mohamad Al-Bakri大臣は,特定の人が必ずワクチン接種を受けなくてはいけないか言及はしていませんが,ワクチンの安全性に関して国民は政府を信じるように呼びかけています.
→Malay Mail: Covid-19 vaccine is permissible for Muslims, says Islamic affairs minister
Malaysiaの新型肺炎による感染症重症化・死亡率の低さを考えると,ワクチンの副反応の方がriskが高いのではないかと考えています.
医療現場の悲鳴,首相の「MCO 2.0」決断
首相会見の事前にはすでにMCO 2.0の噂が流れていました.
大部分のMalaysia国民の大部分が厳しい制限令を希望しているという空気でした.
そして国民の希望に沿うように首相が”厳しい”活動制限を発令する流れになります.
国民が望む私権の制限
私は2021年1月日本に帰国していました.
小池都知事の要請のもと菅首相が日本の緊急事態宣言を検討しているときに,緊急事態宣言を求める日本の世論を観察していました.
Malaysia国民による今回のMCO 2.0待望の声も,日本の緊急事態宣言を望む世論と類似しています.
一人一人が衛生管理を徹底して,感染riskの高い場所を避ければ,緊急事態宣言は不必要のはずです.
(日本,Malaysiaに限らず)国民が感染症に関する私権の制限を望むのは,他人の私権を制限してほしいからに過ぎないと思います.
感染症を抑え込むために,国民で一致団結して望むことは理解できるのですが,行き過ぎると足の引っ張り合いのような状況になります.
私たちが新型肺炎に遭遇して,生活様式が一変してもうすぐ1年経とうとしています.
もし.感染症との戦いがあと3年続くとしたらどうでしょう?
みんなが不幸になる,私権を制限する活動制限をずっと政府に要求し続けるのでしょうか.
それとも,お互いの私権を認めて,うまく感染症を回避する方法を確立していくのでしょうか.
医療現場の悲鳴と,首相の本音が垣間見える会見
Muhyiddin首相による,会見は18:00ちょうどに始まります.
当日の午後まで会見の時間が告知されず,会見を待ち望む国民は午前中落ち着かずに過ごすことになります.
首相の会見の要点は次の通りです.
ポイント
- 5つの州で1月13日(水)から14日間のMCO(Movement Control Order,活動制限令)を発動する
- MCO対象地域は,Selangor, Penang, Melaka, Johor, SabahとKL,LabuanとPutrajaya
- Malaysiaの医療体制は崩壊の直前まで追い込まれている
- 厳しい行動制限により,感染の連鎖を断ち切り,日々の感染者数を押さえ込む必要がある
- 全ての国民にSOPを遵守してもらい,2週間のMCOを乗り越えてほしい
詳細な行動遵守規範のまとめは下記をご覧ください.
→ 在マレーシア日本国大使館:【新型コロナウイルス】活動制限令(MCO)等の施行(1月13日から有効)
後日談ですが,この30分前に国王に首相は謁見をしており,中継映像は事前の録画という説が流布しています.
政府関係者のMCO関連の会見は時間通りに始まらず,私も今回は時間通りに始まり不思議に感じました.
首相会見を受けた私の感想
MCO 2.0の会見を受けて私なりの感想をまとめます.
メモ
- MCOは全国規模ではないが,完全に感染症を鎮圧できるか?
- MCOの期間は2週間であるが,感染拡大を抑え込むには短すぎる?
- MCO対象地域でも,製造業・建設業・農業などの業界の稼働を認めるとあるが,集団感染が起きた業界を制限しないで良いのか?
- 医療逼迫に陥っている原因は,無症状者を含めた大量のPCR検査実行にあるのではないか?
MCOは,感染症を抑え込む一方で経済を瀕死に追い込む劇薬です.
政府も劇薬を使うのであれば,一撃で感染症を抑え込む戦略でいかないと経済への副作用が強過ぎます.
私は,MCOは不必要だったという立場ですが,MCO 2.0の施行が決まった今従うほかありません.首相の発表を聞いていて,4つ疑問に思いました.
MCOの対象地域を全国規模にしなかった
病原菌は必ず国内で感染を続けます.いずれ,国内の移動を解放したときに再度感染拡大となると,今回のMCOの意義が失われます.
MCO 2.0の期間が2週間しかなく,感染症を抑え込むには短すぎる
さらに,MCO終了時期の近くに旧正月があることから,長めにMCOを施行して祝祭日の人の移動を抑えるべきではないかと思います.
MCO 2.0では,製造業・建設業・農業などの業界の稼働を認める
経済活動を止めたくないという内閣の譲歩が見られますが,集団感染を起こした原因を考えるとMCOという劇薬を取り出した割には感染症対策と経済活性化の取捨択一ができていないように思います.
PCR検査の積極的な活用による陽性者の増加
無症状の患者を含めて一律医療機関に収容し続けたことで,ついに医療capacityが逼迫し始めています.早い段階で,PCR検査の対象を絞る,もしくは無症状者は自宅隔離にするという対処をとっておくべきでした.
まとめ:中途半端な感染症対策は,結果長引く経済停滞に
ワクチンの追加確保とMCO 2.0の報道が同日にありました.
ワクチンとMCO 2.0はともに国民の支持を得やすい話題でした.
私はMCO 2.0はワクチンが国民に行き届くまでの時間稼ぎと,首相への支持を集めるための国民への誇示に見えました.
MCOという最終兵器を使う上には,最短の時間で感染症を抑え込むように政府には期待します.