Malaysiaは製造業に経済が大きく依存しているにも関わらず,成長が鈍っており危機感が募っています.
「中所得国の罠」から脱出しようと,第4次産業革命に投資するMalaysiaの様子を国内からの視点でお伝えします.
Malaysia政府が設計した政策が『Industry 4.0』です.『Industry 4.0』はドイツ初の第4次生産革命『Industie 4.0』をもとに作られた政策です.
この記事でお伝えしたいことは,
本記事の内容
- Malaysiaは経済的に発展して2019年には一人あたり実質GDP US$11,198に到達するが,「中所得国の罠」により成長速度は鈍化.
- GDPの22%を占める製造業強化のために,政府は『Industry 4.0』を導入.賛同する企業に補助金で政府が援助.
- ”Made in Malaysia”の世界的認知が鍵.Malaysia独自のモノづくり産業ができれば,将来への期待増.
新型肺炎の感染が止まらないMalaysiaの状況を考えると,工場は労働集約型から早くrobot導入による安定的な生産がますます必要になっています.
新しい産業革命の背景
読者のみなさんは,”Made in Malaysia”と言われて何が思い浮かぶでしょう?
私は学生の頃は,Malaysiaの主要産業といえば天然ゴムという印象がありましたが,1990年代に寿命を迎えるゴム農園を一斉にアブラヤシ農園へ転換したそうです.
今でも,農業はMalaysiaの重要産業の一つです.
農業以外に製造業を中心に経済を発展させるために,かつてMahathir元首相によりMalaysiaは日本をお手本としました.
Look East Policy
1981年第4代首相に就任したMahathir氏は,同年に『Look East Policy(東方政策)』を提言しました.
ポイント
『Look East Policy(東方政策)』の東方とは,日本・韓国のことです.
経済成長している日本・韓国を模範として,労働勤勉,学習意欲,道徳観を学び,Malaysiaの国家発展の礎としようとする政策です.
Malaysaiと日本・韓国の間で人材交流が活発に行われ,Malaysiaの産業が発展する契機となりました.
Look East政策の影響で,Malaysia人の労働勤勉さは日本人の感覚と近いところがあります.
仕事の質を高める努力,仕事の納期遵守する姿勢は,一緒に仕事をしていて共有できる価値観です.
中所得国の罠
2019年にはMalaysiaの実質GDPはUS$3,650億,一人あたり実質GDPはUS$11,198に達しています.(出典:JETRO Malaysia基礎的経済指標)
発展途上国から抜け出したMalaysiaですが,現在は『中所得国の罠』に陥っています.
ポイント
中所得国の罠とは,国民一人あたりGDPがUS$10,000を超えると,経済成長の速度が鈍化する現象です.
MalaysiaではLook East政策のもと,安い労働力をもとに製造業分野を中心として経済成長を牽引してきました.
Malaysia製造業の抱える問題
製造業は,Malaysia GDP 22%を占める一大産業です.2016年時点で人口比でも16.9%が製造業に従事しています,
現在Malaysiaの製造業分野が抱える問題としては,
- Malaysia人の労働賃金上昇による,製品価格競争力低下
- 国内製造業の外国人労働者への依存
外国人労働者への依存に関しては,外国人労働者の宿舎で集団感染が止まらないことでMalaysiaの社会問題になっています.
労働賃金の上昇
下のgraphを見ていただければわかるように,Malaysiaの最低労働賃金は毎年上昇しています.(縦軸はMYR/月)
25日8時間労働換算で,おおよそ時給US$2の計算になります.(雇用主の負担は,保険があるのでより多くなります.)
Vietnamの給料は半分以下,中国は同等か10%少ないです.
結果として,Malaysiaでのモノづくりの価格面での優位性はVietnamや中国に比べて年々薄れてきています.
韓国の大手電機makerは,何年も前に製造拠点の一部をMalaysiaからVietnamに移管しています.
外国人労働者への依存
製造業における海外労働者の割合は26%になっており,外国人労働者なしにはMalaysiaの製造業が成り立たない構図になっています.
Malaysiaは人口3,150万人で,経済的には中所得国に位置します.
Malaysia国民は,労働条件の良い(給料の良い)雇用先を探しており,組み立て工場での単純作業は外国人労働者に大きく依存しています.
しかし,政府は外国人への労働visa発行を制限しており,度々違法労働visaで働いている人を摘発するnewsを聞きます.
例えば,農業visaで入国した人が,関係のない電機製造工場で働いていたなど.国内では工場労働人口が少ないので,違法と知りながら人材斡旋会社に頼む工場もあるようです.
最近では,新型肺炎で経済が息詰まるなか,Malaysia政府は国民の就職先を確保するために,外国人労働visa発行凍結を発表しています.
→FMT: Freeze on foreign worker intake until year-end
ただでさえ,工場で働き口が見つからない中,外国人労働者の受け入れを制限するとどうなるか…早くrobotによる自動化を進めるしかありません.
Industry 4.0とは
「第4次産業革命」は2011年にドイツで提唱された,産業革命の概念です.IoT(Internet of Things)に代表されるように,製造業の上流から下流までをinternetで繋ぐ概念になります.
2018年に再度首相に就任したMahathir氏は,『Industry 4.0』という政策を作りました.
→MITI: Industry 4WRD : NATIONAL POLICY ON INDUSTRY 4.0.
私が重要だと思うmessageは,
ポイント
- 国内製造業を引き続き重要視する
- 製造業の技術革新なしには,新興国に製造業を奪われる
- 産業の技術を革新するために,政府がincentiveを与える
- 労働不足に対する打ち手として,automation(機械による自動化)を目指す
政府の資料を見ても明確に中国に製造業の地位を脅かされることを意識しています.
2019年当時Mahathir首相は,「製造業の一人あたりの生産高をRM106,647から30%向上させる」と述べています.(出典:The Star Dr M: Malaysia aims to be South-East Asia's Industry 4.0 hub)
賛同する企業には,税制を含む政府の優遇策を企業に提示するとしています.(優遇政策の具体的な中身については公開資料を見つけることができませんでした.)
まとめ
政府が企業に対して優遇政策を打ち出して,第4次産業革命向けた投資を企業に促すことは非常に意義のあることだと私は思います.
Malaysia政府の製造業に対する現状問題認識の立て方も適切です.
このままでは,台頭するその他新興国に製造業国家の地位を奪われる.
一方で,Malaysia国内の製造業は人件費高騰と外国人労働者への過度な依存で,製造業の伸びは期待ができません.
第4次産業革命へ追随して国内産業の抱える問題を解決することは正しい方向だと思いますが,次なる問題は将来の製造業のあり方をどこに見出すかです.
私の思う次のMalaysia製造業の課題は,
- Malaysia独自の技術をどのように育てるか?
- 海外にどのようにMalaysia製品を売り出すか?
日本・韓国の大手製造業makerがMalaysiaに海外製造拠点を設立しましたが.Malaysia独自のbrandがあまり育っていないことが私は問題だと感じます.
Industry 4.0の方向性は生産効率を上げる上で必須の革新ですが,Malaysia独自の技術を生み出してくれるわけではありません.
製造業を国の中核に据えるならば,研究機関での基礎研究への投資など,中長期的な技術開発がさらに求められるでしょう.
人口3,150万人のMalaysia国内の市場は相対的には大きくありませんので,国外市場への輸出を拡大するように国家としても製造業を援助する必要があります.
隣国Vietnamでは,2020年6月8日にEUとの自由貿易協定を満場一致で可決しています.(出典:JETRO ベトナム国会、EU・ベトナムFTAの批准議決案を可決 )
Vietnamは安い労働力,豊富な労働人口で今後東南Asiaの製造業の地位を奪取すると思われますが,EUとの自由貿易協定によりさらに輸出面で有利になります.
Malaysiaも貿易協定の戦略を見直し,海外市場での競争力を高めていく必要があるように私は考えます.